今日紹介する本『ダチョウのパラドックス 災害リスクの心理学』では、「心理的バイアスを見込んだうえで、災害対策戦略を練るための方法」を取り上げています。
※バイアスとは、ある考え方に執着し、合理的な推定の域を超えて、固く真実だと信じること。
本書は図書館の新書コーナーにあり、タイトルが気になったので手に取ってみました。
読んでみるとなかなか有意義な内容で、災害時の判断力が養うことができると思います。
この記事の目次
こんな人にオススメ!
●災害リスクに対して楽観的に考えている人(私です…)
●企業やプロジェクトのリスクマネジメント管理を担っている人
(情報セキュリティリスクにも関連があると思います)
●災害時における心理学に興味がある人
「ダチョウのパラドックス」とは?
原書のタイトル「The Ostrich Paradox(ダチョウのパラドックス)」は、以下のような意味合いがあるようです。
ダチョウは危険に直面すると頭を砂に突っ込んでやりすごそうとする、どうしようもないキャラクターとして描かれることが多い。
しかし、実は、ダチョウは飛べないという欠点を克服して猛スピードで逃げ去ることができるようになった、きわめて俊敏な逃げの達人なのである。
本書のテーマは、ダチョウが飛べないために身を守る方法が限られているのと同じように、我々も意思決定をするときにはDNAに組み込まれた心理的なバイアスから逃れられず、あたかも地面から飛びたてないのと似ていることをまずは認めようというものである。
それでも、我々には環境、インセンティブ(報酬金、見返りなど)、さらにコミュニケーション方法を組み合わせ、心理的バイアスを乗り越えて災害に対処するだけの力があるはずだ。
災害に対する備えをより良いものにするために、我々はダチョウを目指して多くを学ばねばならない。
※実際のところ「ダチョウが頭を砂に突っ込む」という習性はないらしく、心理学者が作った用語のようです。
著者・訳者 紹介
著者 Robert Meyer (ロバート・マイヤー)
Frederick H. Ecker/MetLife 保険マーケティング学教博、Wharton リスクマネジメントおよび意思決定プロセスセンター共同ディレクター、幅広い分野の専門誌や書籍で活動している。
著者 Howard Kunreuther (ハワード・クンルーザー)
James G, Dinan 意思決定科学および公共政策学教授、 Wharton リスクマネジメントおよび意思決定プロセスセンター共同ディレクター。
最近の著書に、 2011年 米国保険協会の Kulp-Wright Book Award を受賞した“At War with the Weather”(共著)などがある。
訳者 中谷内 一也(なかやち・かずや)
同志社大学心理学部教授、博士(心理学)。
専門はリスク認知、災害心理学、著訳書に『安全、でも安心できない』(ちくま新書), 『信頼学の教室』(講談社現代新書),『リスク:不確実性の中での意思決定(サイエンス・パレット)』(翻訳, 丸善出版)などがある。
多くの被害を導いている『6つの心理的バイアス』
長年にわたる災害研究の成果から、6つの系統的なバイアスが多くの被害を導いていることが明らかにされています。
①近視眼的思考癖
災害対策のコストと潜在的なベネフィット(便益)を考えるとき、あまりにも目先の時間範囲内で判断してしまう傾向
2004年のスマトラ島沖地震を例に、近視眼的思考癖の説明があります。
インド洋津波警報システムは比較的低予算ですむにもかかわらず、導入しないことが決定されており、『長期間の予想より、短期間の結果』に注目してしまった傾向があるようです。
『近視眼的思考癖』を克服するポイントは、対策をとらないことの結果が、大変重大なものであると認識することです。
②忘却癖
過去の災害の教訓をあまりにも早く忘れてしまう傾向
岩手県宮古市にある大津浪記念碑(おおつなみきねんひ)には「津波は、ここまで来る。ここから下には、家を作ってはならない」と警告しているにもかかわらず、港町が築かれ、一世紀と経たないうちに悲劇を繰り返すこととなりました。
災害に対して「リスクに備えることができているか」周期的に見直すことの大切さを再認識しました。
③楽観癖
将来の災害が引き起こすかもしれない損失について過小評価してしまう傾向
我々の認知が客観的なリスクレベルから大きく離れてしまうのは、次の3つの心理的バイアスから引き起こるそうです。
(1)利用可能性バイアス
出来事の起こりやすさを、その目立ちやすさやイメージのしやすさと同じにみなしてしまう傾向。
(2)楽観バイアス
「自分は大丈夫」と信じ込み、リスクを気にする必要はないとする傾向。
(3)複合バイアス
長期的に見れば比較的高い発生がある危険な出来事でも、今すぐ起こる可能性は低いことに過度に注目してしまう傾向。
これら三つが一緒になると「まずい意思決定」を招くそうです。
自分が住んでいる地域が「地盤沈下」になる可能性を疑わないのも、楽観癖のひとつだと思います。
④惰性癖
新しい災害対策が使えてもその効果が少しでも不確かならば、現状を維持しよう、初期状態を変えないでおこうとする傾向
例えば、電車通勤時に車両点検が発生して、電車が運転を見合わせたときに「違う路線に乗り換えようか」「このまま待つべきか(現状を維持)」判断に迷うときってありますよね?
このようなときに正しい意思決定が下せるかがポイントになると思います。
⑤単純化癖
リスクに関する意思決定を行う際、関係する諸要因の中から一部分だけに注意を向ける傾向
我々の脳は考慮する情報がたくさんあることを理解しても、それらすべてを包括的に情報処理するだけのキャパシティは欠けてしまうため、目を引く情報にだけ飛びつき、他の情報はすべて無視してしまう傾向があるようです。
他の優れた人の模倣(集合知)によって克服することが出来るのではないだろうかと述べています。
⑥同調癖
ほかの人の行動を見て、それに合わせて自分の行動を決める傾向
「群集に賢明さはあるか?」著者は”災害対策への投資”に関しては、そうはいかないだろうと考えています。
集団でいることで心理的バイアスは弱まるどころか、増幅してしまうようです。
以降、本書ではこの『6つの心理的バイアス』の問題解決として具体的な対応策が述べられています。
ぜひチェックしてみてくださいね。
まとめ
本書では各ポイントごとに”コラム” や ”事例”が載っているので、非常にわかりやすい内容でした。
また、章ごとに”まとめ”も記載しているので、問題点が頭に入ってきやすいです。
先日、クリントイーストウッド監督の映画「15時17分パリ行き」を視聴したのですが、列車内のテロ事件に立ち向かう3人組の若者の意思決定力の速さに驚きました。
この物語はなんと実話で、しかも本人たちが演じているので、リアルな生々しさが伝わってきます。
話が脱線してしまいましたが、本書を読んで、災害が多い日本に住んでいる以上、災害リスクと真剣に向き合わなければいけないと改めて実感。
また、自分の身に降りかかる最悪の結果を、具体的にイメージすることが大切だと認識しました。
僕は楽観癖があるので、個人の災害準備・コミュニティレベルの備えを組み合わせてレジリエンス(しなやかな強さ)を高めていきたいです。
以上、今日は『ダチョウのパラドックス 災害リスクの心理学』をピックアップしました!
今日も最後まで読んでいただきありがとうございました!
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